期中現金・期末発生主義は効率的な処理か?
決算・申告と処理の見直しの並行がおすすめ
なんとかしたいという気持ちの成果は無視できません。
反面、無批判に右から左へと処理を受け流していると、
本来の目的すら見失います。
「去年と同じ処理」がベストとは限らないはずです。
現金と発生 売掛金を洗替?
会計、簿記の処理で抽象的と感じるのはお金の動きの無い処理です。
- 売上原価の算定
- 減価償却費の計上
- 経過勘定の計上
- 引当金の計上 etc
「引当金」は実務上は「貸倒引当金」でお目にかかります。
将来の損失をあらかじめ計上する保守的な処理です。
税理士試験でも定番の処理です。
「手当金」の処理は「差額補充方法」と「洗替法(あらいがえ)」があります。
後者の「洗替法」は引当金をガッツリ計上する「繰入」と
一挙に取り消す「戻入」を行います。
- (借方)引当金繰入 (貸方)引当金 ←引当金プラス
- (借方)引当金 (貸方)引当金戻入 ←引当金マイナス
「洗替法」は試験では「引当金」で定番の処理です。
一方、実務では「洗替法」は売掛金などの債権債務でお目にかかります。
実務を開始した直後に面食らった記憶があります。
現金と発生 本当に効率的な処理か?
簿記のノーマルな処理は「発生主義」と「実現主義」です。
(大人の教養簿記Vol.5 本当にガラス張り経営?)
取引の実態を帳簿や決算書に反映させるために必要な発想です。
ただし、抽象的でわかりにくい処理でもあります。
一方、会計知識の無い場合にはお金の入出金での「現金主義」が
直感的にわかりやすい処理です。
残念ながら、人類すべてが「発生主義」で発想できる
ニュータイプへの革新は期待できません(笑)。
「期中現金主義+期末発生主義(以下「現金・発生」)」は会計上の必要性と
現実的な実行の妥協の産物として定着しています。
たとえば、売上と売掛金。
個人事業の売上の経理処理を「現金・発生」で処理すると、
- 期中 (借方)お金 (貸方)売上 現金主義
- 決算 (借方)売掛金 (貸方)売上 発生主義・当期売上計上
となります、
1月から12月の入金時に売上を計上しています。
しかし、税務会計場は発生主義での計上が求められるので、
決算処理で発生主義での計上も加えるわけです。
1月から12月の売上に決算で売上を追加するわけで、
上記の処理だけでは売上が過大になります。
そこで、決算処理では「前期末」決算で計上した分を
「当期末」決算で取り消します。
- 決算 (借方)売上 (貸方)売掛金 発生主義・前期売上取消
売掛金を決算時に発生主義でプラスとマイナスする「洗替法」により、
「期中現金主義+期末発生主義」となります。
一見すると現実的かつ効率的な処理にみえます。
現金と発生 処理をアップデートして月次決算へ!
事業の決済が現金限定であったり、決済期間が1か月以内のみ
といった場合には「現金・発生」は合理的で効率的です。
経理処理の目的を税務申告に絞って年一回まとめて処理する
といった場合にも妥当かもしれません。
一方で、、「期中現金主義+期末発生主義」は、
- 翌会計期間の入金時の計上が漏れやすい
- 月末の日付次第で決済・計上のタイミングが左右される
- 入金時の売上・前受金、支出時の仕入・前払いを混同する可能性 etc
と経営状況を正確にとらえきれない問題があります。
決済が短期的かつ現金中心で、手書きの帳簿作成の時代であれば
「現金・発生」は妥協の産物といえます。
キャッシュレス決済が増えて、会計ソフトが利用しやすい現状では、
「期中現金主義+期末発生主義」は見直しの余地があります。
決算処理と税務申告は1年間の経理処理の締めの時期でもありますが、
同時に経理処理のアップデートの機会にもなります。
「発生主義」での経理処理は「月次決算」ともつながります。
決算・申告と並行して、次の会計期間を見据えた見直しもおすすめです。
蛇足
「期中現金主義+期末発生主義」は誰が考えたんでしょうね?
単独の方ではなく、複数の方が同時期に始めたのかもしれません。
非公式な処理が定番化する過程は気になりますね。
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