大人の教養簿記Vol.5 本当にガラス張り経営?
現金主義ではなく発生主義・実現主義
トントン拍子で進みそうな展開かと思っていたら、
急に暗転してしまうことがあります。
直感や見た目ではわからないお金の管理の問題です。
ガラス張り 失速・暗転・すりガラス
税理士が経営者と初めて面談した際に、
- ウチは「ガラス張り」経営です!
と言われても、鵜呑みにはしません。
疑り深いと思われるかもしれません(笑)。
帳簿の作成に必要な資料が揃っており、脱税する気もないのであれば、
あえて疑う必要はなさそうです。
資料をもとに淡々と簿記の処理を進めれば帳簿・決算書・申告書と
成果品に到達できそうです。
一方、ちょっとした確認から展開がギクシャクします。
たとえば、期末時点での売上や仕入の計上。
経営者にとっては理不尽な計上を税理士から告げられる
ということがありえます。
ガラス張り 現金主義と発生主義・実現主義
複式簿記の処理はとっつきにくい面があるものの、
難解というほどではありません。
現金で消耗品を購入すれば、
- (借方)消耗品 (貸方)現金
という仕訳(しわけ)の処理をするだけです。
右利きの方であれば、左手に財布を持ってお金を取り出す
という動作と合致します。
現金での売上も同じ仕組みです。
- (借方)現金 (貸方)売上
左手に持っている財布に右手で現金を収めるイメージです。
現金、いわゆる現ナマだけの取引だけであれば、
上記の処理で完了します。
残念ながら取引は現金取引だけではありません。
売上にしても仕入・その他の費用にしても、
- モノやサービスの取引
- 取引の決済
とのタイミングは一致しないことが多々あります。
たとえば、売上での「毎月◯日締め、翌月△日払い」です。
売上という事実はあるものの、未入金の状態となります。
- (借方)売掛金 (貸方)売上
売掛金は資産として計上しており、入金があった時点で、
- (借方)お金 (貸方)売掛金
という処理を行うことになります。
お金の動きを基準に簿記の処理をしようとすると「?」かもしれません。
取引の発生や決済による実現に基づく簿記の処理は、
かえってわかりにくい印象です。
経営者を守る視点から「発生主義」や「実現主義」を弁護してみます。
もし、現金主義での簿記の処理ができたのであれば、どうなるか?
残念な「税金対策」が横行するかもしれません。
利益を抑えたいがために、売上請求中の取引を計上しなかったり、
取引よりも入金を前倒しして費用計上できてしまいます。
- (借方)売掛金 (貸方)売上 → 翌期へ先送り?
- (借方)仕入・費用 (貸方)お金 → 翌期分を前倒し?
事実に基づいた処理を行うことで「ガラス張り」経営のはずが、
現金主義の弊害で「すりガラス」経営となります。
取引事実の発生や実現に対応した処理が適正となるわけです。
ガラス張り 毎月決算!?
会計・簿記の処理で有名だけれどわかりにくい処理に
「減価償却(げんかしょうきゃく)」があります。
機械などの固定資産の購入代価を支払ったときではなく、
耐用年数に応じて費用に計上する処理です。
1,000万円の機械を購入した年に一挙に費用計上すると、
- (借方)減価償却費 (貸方)機械 1,000万円
ドーンッと費用が計上されます。
利益が少なくなり、税金が少なくなりそうです。
反面、翌期以降は機械を使用しているにもかかわらず、
機械購入分の費用は計上されません。
簿記の会計処理は「期間損益計算」の適正化を目指しています。
お金の動きだけに左右される・乱高下してしまう処理は
かえって経営の判断を混乱させます。
上記の機械を5年間で定額で費用計上するのであれば、下記の仕訳です。
- (借方)減価償却費 (貸方)機械 200万円
直感的ではありませんが、取引の発生と費用収益の対応ができる処理です。
簿記の目的には適正な期間損益計算による経営の管理があります。
期間損益計算や事業の継続性のない「模擬店」であれば現金主義でOKです。
一方、事業を継続しつつ期間損益計算を達成する複式簿記では、
- 現金主義では適正な経営管理はカバーできず、
- 取引を反映できる発生主義・実現主義の発想で処理
といった発想で適正な処理につなげていきます。
1年間の決算処理だけではなく、毎月ごとの「月次決算」でも
発生主義・実現主義を用いることで業績管理が可能となります。
「ガラス張り」経営といってもお金の動きだけではなく、
取引事実をとらえるための発想が裏付けとなっています。
すりガラスや曇りガラスにしないための理解が必要となります。
蛇足
この記事は2024年(令和6年)1月2日の投稿です。
前日の元旦16時すぎに「令和6年能登半島地震」が発生しました。
実家の自室にいたところで地震に遭遇。
室内の本棚が波打っていたので、慌てて支えていました。
石川県加賀地方は比較的被害が少ないようですが、
実家の外壁の一部が破損したり、置き物が倒れたりしていました。
道路にも落石がみられたり、被害は広範囲に渡っているようです。
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